04. 記憶

「ジノは、本懐を遂げたようだね。」

週明けの昼下がり。
学舎の南棟にある、静かなカフェのテラス席で論文に勤しんでいたルキアーノは、耳馴染みになりつつある級友の声に手を止めた。
中庭を横切り現れた彼は、許可も取らずに向かいに腰掛けると、二人分の紅茶とマカロンを注文し、呆れ顔をする歳下の秀才に笑い掛けた。
元来屈託のない人物であったが、彼の末弟に絡んで自然、本人との口数も増えた為に、学内では度々二人の交際が人目を集めた。
社会的身分に拠らず、広く門戸を開放している学府でさえ、名門貴族の子息が揃えば、社交界の縮図同様に噂された。
例の如く一通の封書を手渡されると、ルキアーノは美しい装飾の施された純銀製の刃を滑らせ、二葉の便箋を取り出した。
丁寧な筆跡を辿れば、初めて逢った晩の貸借が未だ済んでいない旨が伝えられ、聊かの波乱に喜怒哀楽する過日の少年を瞼に思い描いた。
名家の次兄は、字面を眺めた儘で隠しに指先を遣る彼を一瞥し、万年筆の蒼文字が返信を書き終える迄、ひとり優雅に喫茶を楽しんだ。
認めた手紙を託すと、歳上の学友は二つ返事で引き受け、手ずから白磁の椀に温かな紅茶を注いで、優しく勧めた。
礼儀正しく謝意を示して琥珀を傾ける風情は、躾も然る事乍ら洗練された美しさで、級友は向かい席を眩しそうに見守った。

「弟は一度逢っただけの君に随分心酔していたけれど、正直な処、私は相手にされないと思っていた。歳は八つも離れているし、あれは快活な気質を持ち合わせ ている反面、打ち解けるのにとても時間の掛かる子でね…失礼乍ら、普段の君からは、社交に重点を置いて居る様子も見受けられなかったし、厄介な対象と疎ん じられて、御終いだと予想していた。だが、如何やら私の読み違えだったらしい……まさか一等身近な家族の中に、彼のブラッドリー卿を名前(ファースト・ ネーム)で呼ぶ子供が居たとはね。」

流石の父も驚愕したものだ。と次兄は頬杖を突いてルキアーノの出方を窺ったが、悪戯っぽく瞼を伏せて躱された。
ジノは確かに内気であったものの、子供の特権からか、自分の欲求に素直な積極性が見られ、其れが先般の申し出に繋がったと解釈した。
尤も、其れ位の腕力が無ければ歯牙にも掛けなかったであろうが、極限的な禁欲の姿勢と甚だ不均衡な慎ましい願望に、少年の本體を見た。
気紛れに構った積りも、幼い軀の奥深く秘めた焔は、本気にならねば何れ焼き尽くされる激しさで、招待の晩から彼は岐路に立たされた。
未だ二度の顔合わせしか果たせぬ新たな存在乍ら、此処で選択を誤れば、後々まで其の代償を支払う事態に陥るとは、容易に想像出来た。

「遊びなら、退いて呉れないか。」

何時に無く沈着冷静な声音に、ヴァインベルグ家も同様の懸念を抱いていた事実を察し、紅茶茶碗を静かに置いた。
由緒正しい血統と名高い両家の交際ならば、継嗣か学友たる次子が妥当であり、年端も行かぬ末子が社交の裏表に踏み込むは尚早と、当然の異議が唱えられた。
本家で行われた親族会議の席上、話題の中心に据えられた少年は、居並ぶ大人達相手に、列挙された曖昧な不安要素を悉く一蹴して退けた。
ブラッドリーの歳若い当代が斯様に頑なな子を往なせば、よもや若輩から無理強いも叶わぬ筈も、大方の予想に反する結果と相成った。
皆が途方に暮れる中、父は泰然自若として稚い末子を呼び寄せると、穢れ無い蒼穹の瞳を覗き込み、自身で決断するよう穏やかに諭した。

「ヴァインベルグ卿に言伝を。明朝、正式な書簡を差し上げる。」

橙髪の才頴に見詰め返された名家の次子は、歳下乍ら漂う風格に気圧され息を呑んだが、杞憂だ。と加えられると、安堵の表情で了承した。
脅し文句とも取れる非礼な言葉を陳謝すれば、彼は意味あり気に片眉を上げ、喫茶の請求書を突き付けた。

「此れはまた大層な慰謝料だ。」

弟想いの級友が戯けて肩を竦めると、高貴な淡紫の眦が微かに綻んだ。





屋敷に戻った兄から顛末を聞かされた幼い末弟は、話の途中で立腹の余り瞳一杯に潤みを湛えたが、最後には歓喜して話し手を抱き締めた。
持ち帰られた手紙には、御抱え菓子職人(パティシエ)が発案した桃のパルフェが中々に秀逸で、今週末に評点を頂戴したいとの趣旨が綴られていた。
便箋の余白に並ぶ右上がりの流麗な細文字を、ジノは何度も何度も読み返し、小さな胸にほんのり幸福を灯した。



翌朝、正装したブラッドリー家の使者が恭しく紋章入りの親書を届け、歳の離れた二人の交際は正式に認められた。





其の週末、聊か緊張の面持ちでブラッドリー家の門扉を潜ったジノは、出迎えた後見人夫妻の溌剌で温かな人柄に心底ほっとした。
補佐役が叔父に当たる人物と聞き及び、厳めしい年配の紳士を想像していたが、実際には壮年期に入って程無い逞しい男性だった。
奥方は明朗な女性らしく、初対面の少年から可憐な花束(ブーケ)を贈られると、感嘆の声を上げて両腕で小さな軀を抱き、訪問客をたじろがせた。
仲睦まじい似合いの夫婦(カップル)であったが、気難しい歳上の友人とひとつ屋根の下で暮らしているとは、些か不思議な取り合わせに感じた。
慇懃な挨拶が済むと、夫妻は肝心の招待主が姿を現さぬ事態を謝罪し、昇級試験を控え、毎夜遅くまで学業に勉励しているのだと明かした。
客人が未だ離床する気配の無い階上を一瞥すれば、二人は躊躇わず彼の私室へと誘った。
扉の前で夫人は優雅に膝を折り、朝寝坊を叱って頂戴。と御転婆な少女の様に片目を眇め、薄暗い部屋にジノを通した。



太陽の昇る方角に面した部屋は、厚手の窓掛けで厳重に遮光され、未だ夜の続きと錯覚するような濃厚な闇が横たわっていた。
少年は暗がりに二の足を踏んで、真鍮を後ろ手に握り締めつつ、廊下から高くなった陽を差し込ませ、目を凝らして室内を窺った。
期待した主人の姿は何処にも無く、拍子抜けして壁際に駆け寄ると、素早く帳を手繰り寄せ、磨き抜かれた硝子窓を一杯に開け放った。
清々しい空気で浄化された部屋を見廻せば、文机には難解な図書が積まれ、書き散らした罫紙や筆記具さえ、其の儘の格好で残されていた。
奥まった場所に配された天蓋付は、寝具の乱れも無く、訝しげに小首を傾げたが、突き当りに恰も隠し部屋の如き慎ましい入口を発見した。
扉に耳をそばだてるも静寂の空気を感じ取り、少しく逡巡した挙句に、意を決してそろり把手を回転させた。



二重扉の先に踏み入れば、独り使いには充分過ぎる贅沢な造りの粘土板(タイル)張りに、猫脚の浴槽が据えられ、天窓から優しい光が舞い込んだ。
数日来胸をときめかせた相手は、乳白色に総身を浸し、優美な大理石の縁に橙髪を寄り掛けて、勝気な鼻梁からは平穏な寝息さえ聞かれた。
伝統的(クラシカル)な深い槽の中、湛えた水面には色鮮やかな花弁が揺蕩い、幼い客人は密やかな至福の時を垣間見た心地で、無意識に固唾を呑んだ。
床面に落ちた読み止しの新聞は黒文字が滲み、だらり垂れた逞しい腕にぎこちなく触れると、思い掛けぬ低体温に愕然とした。
慌てて湯船に五指を入れ、刹那に人肌以下の温みを感じ取っては、急ぎ蛙足を目一杯迄捻り、煙立つ熱湯を怒涛の勢いで注いだ。
黄金色の蛇口から温かな水蒸気が立ち上るも、撹拌された小さな湖面に浮かぶ花片は匂い起こさず、端整な彼の纏う芳香の名残が漂った。
初めて出逢った美しい月下、独り泣きの木陰を暴いた紳士に抱かれて、燻る紫煙特有のえぐさで無し、仄かな伽羅に、挫きの痛みさえ失念した。
最早生涯記憶から褪せぬひとひらの春の馨を、少年は稚い胸の一等奥にそっと仕舞い込んだ。



やがて満たされた温もりが俯けた精悍な顎(あぎと)に達し、ルキアーノ=ブラッドリーは静やかに目を醒ました。
虚空を眺めていた起き抜けの視線が、金髪の可憐な心配顔を認識するや、長い睫毛をゆっくり瞬いて、Hi,Kitty.と莞爾として囁いた。
尾を引く微睡の無防備さからか、やわらかな微笑みに名家の末子は狼狽し、消え入りそうな…おはよう。の一言を返すのがやっとだった。
翻り邂逅の夜に端麗な容姿を透かせば、冷淡な棘に覆われた荊道を抜けた先に、優しさと謂う名の純真な核を感じて、自身の人見知りも憚らず強く心惹かれた事 実を想起した。





柔らかなタオルで濡れ髪の雫を拭いつつ部屋に戻れば、小さな客人は假眠を取るよう強く勧めたが、彼は聞き流す素振りで水差しを傾けた。
礼儀正しい筈のヴァインベルグの末子は忽ち不満げに頬を膨らませ、歳上の華奢で大きな手を掴むなり、有無を言わさず寝台に横たえて、強引さとは裏腹に、肌 触りの良い毛布(ケット)をふわり上から被せた。
意想外の大胆さにもルキアーノは、やれやれ。と苦笑混じりに嘆息し、半時後に声掛けを依頼すると、観念した様子で柔らかな織物の奥深くに包まった。
少年はほっと目許を綻ばせ、遠慮がちに敷布の端に腰を下ろして、俯けた秀麗な半面が微睡みへと落ちていく迄、一途に寄り添った。
緩やかに上下する逞しい肩を暫く見守っていたが、やがて眠りの深淵に到達した気配を感じ、撥条(スプリング)を揺らさぬよう静かに天蓋を離れた。
幼い彼は、思い掛けぬ形で手にしたほんの僅かな自由時間を、未だ日の浅い交際相手が所有する私的空間の探索に充てた。
書斎と二間続き乍ら、閨室にも洗練された本棚が作り付けられ、子供の背丈では届かぬ高さに、額入りの古い写真を数葉認める事が出来た。
いじらしい爪先立ちで、在りし日の想い出を熱心に眺めていたジノは、嫣然たる微笑みを向ける腰細の美貌に一際心惹かれた。
健やかな寝姿をちらと窺い、大人びた額に掛かる前髪の赫、気品漂う涼やかな目許の淡藤、優美な小高い鼻先に薄い唇迄もが、母親譲りと了解した。
当代の皇帝も密かに想いを寄せていたとされる貴婦人は、歳上の彼が未だ覚束無い幼少の時分に身罷ったのだと、兄から聞き及んでいた。
冷淡と囁かれる橙髪の紳士であったが、仕舞われた倖せな肖像には塵一つ見受けられず、家族の記憶が大切に扱われている事実を、少年は微笑ましく感じた。





身支度を整えた招待主の案内で階下へ赴けば、約束通りの甘味を振る舞われ、眩い金髪の客人は有能な菓子職人(パティシィエ)に惜しみ無い賛辞を送った。
一匙上品に含んでは、小さな口腔に広がる熟れた果汁を堪能し、木漏れ日を想わす淡い微笑を湛えた。
後見人夫妻は清楚な貴公子を甚く気に入り、次はもっと喜ぶ何某かを饗しようと、穏やかな眼差しを向け合った。
漸う打ち解けた少年から、想像よりもずっと歳若な補佐役に驚き入った胸中を告げられ、紳士は眉間に皺寄せて、威厳を演出した。
さて、二十歳の差と御分りかな?と、意識的な低音に奥方は忽ち噴き出し、ルキアーノも肩を竦める素振りを見せると、彼は満足げににっこり笑った。
聊か呆れ顔乍ら、其の実、叔父上は中々の辣腕家だ。と客人に耳打ちする姿を目にした夫婦は、長年の責務に対する評価を初めて受け、密かに安堵の胸を撫で下 ろした。





ゆったりとした午前の紅茶が済むと、歳上の彼は、日課とも謂うべき散歩に幼い客人を伴った。
行き先任せの外出にも少年は素直に喜んで、初めて訪れる初秋の街を、落ち葉をかさかさと踏み鳴らして歩いた。
一頻り足許に夢中になっていたが、時折立ち止って歩調を揃える紳士の爪先に気付き、感じた小さな倖せの儘に、言葉数少ない同伴と手を繋いだ。



途中、二人は智の殿堂たる帝立図書館に立ち寄った。
ジノは終ぞ目にした例の無い大規模建造物に興奮を隠せなかったが、連れ立った彼は勝手を弁えた風で正面玄関を潜り、目的の書架迄迷わず行き着いた。
ルキアーノは由緒正しい血筋であり乍ら、上流階級では当然とされる身辺警護を嫌い、風紀上眉を顰める場所さえも、一人気侭に闊歩した。
誘拐の危険性を孕む夜遊びに、後見人が護衛を厳命しても、公式行事等の特別な場合を除いて、黒服が視界に立つ事を絶対に許さなかった。
主人を凌ぐ冷酷さで不逞の輩を遇える者も無く、武勲の誉れ高い家柄の継嗣たる養育を受けた彼は、実力で干渉を回避して生を享楽した。

「…ルキアーノ……君、其方の目が悪いの?」

御目当ての一冊を探し当て、隠しから取り出した片眼鏡を掛けたなら、少年は疎らな周囲を憚りつつも、喫驚の面持ちで密々と尋ねた。
頁を捲る指先を休めず首肯すると、まるで自分の責とでも謂わんばかりに悲嘆の色を浮かべ、背伸びして薄い丸硝子を覗き込んだ。
事実、彼は父から折檻を受けた際に瞳を痛めたものの、細かな文字を判読し辛い程度で、実生活に影響を及ぼす障碍迄は遺さなかった。
此処最近、夜通しの試験勉強で聊か酷使し過ぎた感が否めず、気遣いから着用を心掛けていた処であった。
長身を屈め、大事無い。と片眉を上げる仕草で往なすも、心配顔した小公子は彼の眼窩からそっと鏡を外し、小さな楓で無傷の方を覆った。

「斯うして仕舞うと、景色が霞む?」

子供の細腕一本分離れた処から視認性を試され、悪戯心から沈黙すれば、真っ暗闇なの…?と不安げに軀を半歩近づけた。
猶静謐な空気に不安を煽られて、少年は額が重なる程傍寄ったが、彼は眼前に広がる蒼穹の美しさを堪能し終える迄、言葉を慎んだ。



歳上の彼は勤勉な学徒の顔付きで、小難しい書籍を次々手に取っては頁を逸り、手帳に右上がりの流麗な走り書きを多数加えた。
其の隣で目眩く児童文学の世界に浸っていたジノは、職員に図書の貸出し手続きを尋ね、後日、仲睦まじい次兄と訪れる楽しみを残した。



小一時間ほど滞在した図書館を出て、二人はまた穏やかな散歩を続けた。
辿り着いた広大な緑地公園の敷地内には、洗練された老舗のカフェが佇み、此方に気付いた給仕(ギャルソン)がにこやかに会釈した。
午後の賑わいを行き過ぎる積りが、幼い連れ人は後ろ髪を引かれる風情で足を止め、遊歩道に向けて開放された店の様子に暫く見入った。
空腹なのかと問い掛ければ、少年は頭を振り、貨幣を使用して奉仕の提供を受けた経験が無く、少額の購買すら家人任せと打ち明けた。
此の箱入り振りに橙髪の彼は唖然とし、課外授業だ。と隠しから掴み出した紙幣の束(マネークリップ)をジノに渡すと、木立に近い軒先の席に着いた。
註文聞きが彼等の許へ歩み寄れば、人見知りよりも好奇心の方が勝る様子で、手順を教わり乍ら大過なく支払い迄を終えた。
店員が踵を返し、少年は感謝の言葉と共に預かった札束と釣銭を差し出すも、勉強料に呉れて遣る。と頬杖突いて苦笑され、途方に暮れた。
子供には過ぎる大金の出所を慮り、重ねて固辞すると、歳上の彼は肩を竦めて、寄稿した或る研究機関(アカデミー)からの報酬と明かした。

「副産物の泡銭だ。」
「だけど……君が費やした時間を想えば、もっと有意義に使うべきでは…?」
「成程。では、次回は其れで奢って貰うとしよう。」

然う意地悪く切り返し、酸味の利いた珈琲を一口含んだ。
金髪の小公子は未だ何か言いた気な素振りを見せたが、カフェ・オ・レが冷める。と話を逸らせば、大人しく謝礼金を仕舞い、事は妥結した。





聊か遅い帰りに、気を揉み乍ら門扉を窺っていた後見人夫妻は、長い外遊びから漸く戻った二人の姿に目を丸くした。
老舗の茶亭を過ぎた先、広場の人工間欠泉は少年の感興を最大限そそり、虹の掛かった噴出孔を覗こうとして、見事にずぶ濡れになった。
無謀な仔猫(キティ)だ。と肩を揺すったルキアーノも、最後には遊び疲れた幼い軀を抱えて帰り、洗練された着熟しにも湿り気を帯びた。
夕餉の支度が整う迄に沐浴を促せば、脆い玻璃を扱う慎重さで小さな両足を地に着け、大人達は普段は見掛けぬ優しい所作に内心驚愕した。
執事から案内を受けた客間で、手早く湯浴みを終えたヴァインベルグ家の末子は、当然の如く用意された真新しい着替えに、顔を綻ばせた。
若くして名門を背負って立つ彼と、其の周辺に在る人々の濃やかな気遣いに感謝して、ジノは石鹸(シャボン)香る白い素肌に三つ揃えを纏った。



晩餐は本式乍ら、眩い金髪の小さな客人が雰囲気を和ませ、夫妻は歳の離れた友人達の遣り取りを、終始温かな微笑で見守っていた。
楽しい話題続きの食事を終えると、彼等は階上の部屋に戻り、市松模様の盤を広げて駒並べに興じたが、幼い指先が睫毛を幾度か擦った。
静やかな気配が一時過ぎ、そっと部屋の様子を覗いた後見役と奥方は、天蓋付の褥を仲良く分け合う寝姿を認め、幸福感で胸を満たした。
二人は細心して扉を閉ざすと、互いに腕を廻して寄り添い、ゆっくりと階段を下った。
一人遣わした末子を待ち侘びている筈のヴァインベルグ家には、今暫くの後に送り届けるとの、鄭重な連絡がなされた。